探す時には店が見つからないのが常。

 ギラギラと輝く晩夏の太陽の下、良くは知らない街で食事処を探し回る。昼はとうに過ぎている。そんな折、粋な蕎麦屋を見つける。この暑さの中、冷たい蕎麦とは、歩き廻った甲斐があるもの。店構えからは手打ちに自信ありのよう。
 
 坪庭を通り玄関戸。高級な雰囲気をかもしだす。中に入るとすべて座敷。それほど広い店ではないが、客どうしが視線を合わせにくい作りになっている。そして接待も清々しく、蕎麦自慢の店らしく、亭主の蕎麦打ちの写真が飾ってある。

 客は私達をいれて3組。皆様がどんなものを食べているかをチェックしつつ、蕎麦御膳なるその店の人気メニューと思われるものを思い切って頼む。

 落ち着いてみると、ここから見えない位置の客が政局と今後の問題点について熱弁を奮っている。
そういえば選挙も近いのである。

 お通しが来た。
竹の箸が嬉しい。この箸、土産に貰いたいなぁ~などと言いながら通しを一口。
珍しいのかも知れないがそれほど美味いものではない。
そう、僕らは蕎麦を食べに来たのであり、それほど気にすることはない。

 見えない席の客は政局から歴史に話題が移り「豊臣秀吉をみろ」などと言い、さらには地球環境についての話題となる。なんとハイレベルな客だぁ。
 そんな話を聞いている内に蕎麦御膳がやって来た。いよいよである。あの暑さの中歩き廻った苦労が報われる。

 さすが通の店。薬味がない。本格的だ。純粋に蕎麦だけを楽しむ。お茶の道にも通じるのではないか・・・。シンプル イズ ベストなのである。

 まごもじして食す・・・、すると、・・・あまり美味くない。

 店の雰囲気、接待などすこぶるよし・・しかし美味くない。
もしかしたらこれは不味いと言って良いのではとも思う・・・。

 少し暗い気分となったが食べつくし、蕎麦湯を飲みホッとする。

 帰りがけらにトイレに立つと、天下国家を語る客が見えた。
すると見覚えのある顔・・。なんと客ではなく、店に飾ってある写真、蕎麦打ち職人の、この店の亭主。

 「ご亭主、天下国家の話もいいけど、蕎麦の味なんとかしてくれ!」と言いたかった。

 そして帰りの車の中で・・自分達も「天下国家を話すよりこの建築なんとかしろ!」などと言われないようにしなければ・・と肝に銘じることとなる。
そして、このようなことを「不味い蕎麦屋の天下話」と呼ぶことにした。