日常の中には、さまざまな危険が隠れている。
天災は仕方がないとしても、人災ならば避けたいと思うのは、誰もみな同じことですね。

建物と言う日常空間を造っている身としては、住む人・使う人が危険な目にあうような建物は、一番避けたいと考えている。いやたぶん私だけでなく、建築に携わる全ての人が同じ思いの筈。それでも何かの間違いで、ちょっとした思慮に欠ける発想が、危険を呼び寄せてしまうこともまた、知っておかなければならない。

そんな過去に事故のあった危険な建物やデザインを、その原因や結果を検証しながら一冊の本にまとめたのが、日経BP社から発行される『危ないデザイン』という本だ。

『危ないデザイン』

これは建築の専門誌・日経アーキテクチャーで過去に特集された事故の事例をまとめ、それに加筆修正を加えて、一冊にまとめた本で、建築に携わる身としては本書を熟読し、危ない建築デザインから少しでも遠ざかりたいと思う。

少し話が反れるかも知れないが、私が高校時代に、こんな事故を直ぐ目の前で目撃した事がある。
体育館での全校集会が終わり、それぞれの教室に戻るために、一度に狭い通路に生徒が押し寄せた事がある。廊下に通じる網入りガラスの入った両開き扉は、廊下から体育館側に開くものだった。

いつもの全校集会の際には通路の広く確保するように、両方の扉が開かれていたのに、なぜかその日だけは片方の扉だけしか開かれていなかった。しかも閉じられているガラス扉を開くためには、後ろから押し寄せる大勢の生徒の流れを一度止め、ドアを固定しているストッパーを外し、手前側に引かなければならない。

ヤンチャ盛りの高校生の集団に、「押すな!押すな!扉を開けるから少し待て!」などと叫んでも、誰も聞く筈が無い。悪魔のような見えない集団の力が、後ろから加えられ続け、開けようにも開けることの出来ないガラス扉の前に立っていた生徒は、ガラス扉との間に押し付けられていた。

その周囲に居たものは危険を感じ、「押すな!」と叫ぶも、後ろからの圧力は増すばかり。そして限界が。悲鳴のような怒号がピークに達した瞬間、彼の右足はワイヤー入りのガラス扉を突き破り、膝から下だけが廊下の中に突き出した。その後のことは、あまり良く覚えていない。


日常の中に潜む、ちょっとした不注意だったと言えば確かにそれまでだが、似たような経験を誰しも一度はしてはいないだろうか。ピカピカに磨かれた床が、ほんの少し濡れていたために転んだこと。ガラスがあることに気付かずに、そのままおでこをしこたまぶつけたこと。階段をリズムよく下りてきたら、最後の一段だけ高さが違い、思わず転んでしまったこと。

大した怪我じゃなかったから笑えるし、ひょっとしたら記憶ににさえ残っていないのかもしれないが、寿命が縮むほど怖かったことや、本当に怪我をしてしまったら笑い話ではすまされない。そして、それが日常の中に、コッソリと隠れていることが何よりも怖いのだ。

「そんなことがある筈が無い」「こんなことが起こる訳が無い」という常識的な思考と発想が、油断に繋がる事がある。本当ならば避けられた事故、あるいは近付かなかった場所に、「魔が差す」ように吸い寄せられてしまう。

本書は、そんな日常の中に潜む危ないデザインを検証している。
いろいろな意味で反省しながら、勉強するつもりで読んでみたいと思う一冊だ。

神奈川県小田原市荻窪314正和ビルみなみ302
天工舎一級建築事務所
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