【改正建築基準法】設計者の努力だけでは対応に限界、日事連緊急会議の参加者が指摘(「KEN-platz」07/08/31)

「改正法施行の前ならば、設計者は着工後に施工者と相談しながら実施設計を煮詰めていくことも不可能ではなかった。しかし建設会社が設計・施工一貫で手がける建物を除くと、確認申請時には施工者は決まっていないのが普通だ。「設計者はこれまで以上に、施工現場を強く意識して申請図書をまとめる必要がある。それができない設計者は淘汰されていくだろう」(杉本氏)。 」

上記のような記事を見つけた。
いうまでもなく、設計者は、設計段階で施工現場を意識して設計図を書くべきである。
設計図が建物の建設のために描かれるものである以上、施工現場をまったく意識しない設計図はありえない。
ただ、このような法規的な制約によって、現場での設計変更が認められないとすれば、設計者は新しい技術の開発に挑戦できなくなり、ますます既製品だけを組み合わせて作られた凡庸な建物が増えることになるだろう。 現代の建築は、他の業界と同様に非常に細分化された職業の人々が協働することで建設されている。
設計者は設計図を描き、施工者はその設計図をもとに工事を行う。また、設計者にも意匠設計者、構造設計者、設備設計者などさまざまな分野があり、施工者にも、工事統括者、鉄骨業者、内装業者、ガラス工事業者など、さまざまな業種に分業されている。

しかし、実際の建設生産の現場はそれらのすべての作業が明快に区別できるわけではない。
設計図は、施工の技術を踏まえる必要があるし、施工者は工事のプロセスを踏まえて設計者に設計図の変更を要望することもある。
特に、新しい技術を試みるとき、設計段階では予想し得ないさまざまな問題が、工事を進めるなかで発見されるものである。設計者と施工者が分割して発注される一般的な建設方式の場合、設計の段階では、大抵施工者は決まっていないために、設計者と施工者とは、工事が始まってからしかコミュニケーションを採る機会がない。そのため、設計の段階は、あくまで紙の上で作業をするしかないが、紙の上で予測できないことが、現場では起こる。
その問題を解決するためには、分業されている領域を超えて、設計者と施工者、ガラス業者と鉄骨業者など他業種間のコミュニケーションが必要になってくる。
あるいは、紙の上では予測ができない場合、工事現場において実験や試作を行う必要がある。

にもかかわらず、今回のような法改正によって、設計段階で提出した確認申請の設計図への現場での変更が一切認められなくなるすれば、設計者は、細分化された業者間のコミュニケーションがあって初めて可能になる新しい技術に、一切挑戦できなくなってしまう。
工事現場で、できるだけ予期せぬ問題が起こらないように、これまで多くの建築物で使用されてきた在り来たりの技術、建材メーカーが提供している標準的な技術を使わざるを得なくなるのである。
これまでも、おおよそおおよそ凡庸な建物は、既製品と標準的な技術を組み合わせることで建設されてきたが、今回の法改正はその傾向を一層強くするだろう。

ルネサンスの建築家ブルネレスキにまで遡れば、建築家とは、むしろ当時は建築技術とは扱われていなかった雑多な技術を「建築」という構築物に統合する者に対して与えられた職業名だった。
とすれば、既製品として組み立てられた建設業界の技術をそのまま受け入れて設計図を描くだけの設計者は、建築家と呼ぶにふさわしくないし、細分化された業種間のコミュニケーションを不可能にする法規は、いわば「建築家」を淘汰する制度ともいえる。

そういう意味で、今回の法改正は、「建築」の可能性を著しく狭めるものであり、近い将来、「建築」を行き詰まらせる元凶になるに違いない。