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 私の設計監理を行った住宅では、入居後1年の検査を行っています。完成後の1年検査はどこの工務店でも行っていることと思います。この検査に設計者も立ち会います。
 ある住宅の1年検査での心に残ったお話しをお伝えします。この住宅S邸は、設計から工事に入り完成までS様ご家族皆さんが熱心に楽しく関ることの出来た住宅でした。工事中は現場の棟梁とも交流がもて、S様の二人息子(小4、小1)は現場にて端材を使って何かを釘打ちして組み立てていました。棟梁との雑談も楽しかったそうです。
 残念なことに、この現場を担当した棟梁のMさんが住宅完成から1年後に体調をくずして他界してしまいました。S様ご家族皆さんと私も大変悲しい思いをしました。
 そのような状況下で入居後1年の検査を行いました。床下に点検口から頭を入れて点検している時に、木の切りくず(おがくず)がまとめられている箇所がありました。私は床下の清掃が不十分であった事を詫びて、さっそく清掃をしようとした時に、S様ご夫婦が「そのおがくずの山は、そのままでよい」と言うのです。それから「この家を建ててくれたMさんの手業の痕跡だからそのままにしておいて欲しい」と言われました。私は床下に頭を入れて、しばらく目頭を熱くしていました。
 一念入魂して仕事に当たらねばと思った次第でした。